〝報恩感謝〟。今回は、縁を作ってくれたご先祖さまに感謝するという浄土真宗の考え方についてお話ししたいと思います。 亡き方を供養するのではなく、縁に感謝する――そこが、浄土真宗とほかの宗派の大きな違いといえます。
仏教で一般的なのは、追善供養の法要。これは、亡き方に代わり、善行を積むための供養です。地獄に堕ちたり、餓鬼道に迷い込んだりした方を救うための法要といえます。 しかし浄土真宗の宗祖・親鸞聖人は、亡くなった方はすぐに仏さまになられる即得往生を説きました。地獄や餓鬼道に落ちる人はない、と。 つまり亡き方はすぐに成仏して極楽にいらっしゃるわけですから、追善供養の必要はないのです。
〈善人なほもちて往生をとぐ、いはんや悪人をや〉という言葉をご存じの方も多いでしょう。 親鸞聖人が示した浄土真宗の根幹をなす思想である悪人正機説です。 分かりやすくいえば、自分が善人だと思っているうちは善人ではない、自分が悪人だと気がついた人こそ救われるという考えです。
また親鸞聖人は〝他力本願〟という言葉についても述べています。 他力の意味を他人の力と捉える人も多いのですが、本来、他力は阿弥陀如来さまの力こと。 浄土真宗のご本尊である阿弥陀如来さまは、48の願を立てました。そのうちの18番目の願が、阿弥陀如来さまを頼り、念仏を称えた者は必ず救われるという念仏往生の願。 はじめて仏教に触れる方にはハードルが高い話かもしれません。
確かに、亡き方に感謝するために、と話すよりも、亡き方の追善供養で、と言った方が、法要に人が集まるのも、また事実です。 〝報恩感謝〟の法要は、仏さまに手を合わせるご縁を与えてくれた亡き方の人生を、ひいては自分自身の歩みを振り返る機会を与えてくれます。 法要への参加の理由はどうあれ、ご僧侶の法話を聞くことで、ご先祖さま、亡き方を思い、ご自身を見詰めるきっかけになると思うのです。(続く)
取材・構成/山川徹